前回、フランソワ-ポール・ジェンヌにて
立ち上げた時計ブランドに関して
紹介しました。
いわゆる独立時計師と呼ばれる
メーカー等の企業に属せずに時計を
製作する時計師です。
そして、今回も独立時計師に分類される
フランク・ミュラーについて紹介します。
※現在、独立時計師アカデミー(AHCI)は
脱退済み
この方も、天才時計師と呼ばれる人物です。
まずは、誕生からの歴史について、
概要となりますが、説明していきます。
歴史について
1958年、スイスのラ・ショー・ド・フォンにて誕生。
スイスの時計産業が有名な都市。
下記はその町並み。
そして、1975年にジュネーブにある時計学校に入学。
3年で履修するべき単位をわずか1年で取得し、
主席で卒業したと言われています。
当時の時計学校の卒業制作において、
ロレックス1本分のパーツを与えてそれを自身で
組み立てるといった課題があった様です。
その課題に対して、フランクミュラーは
改良を行い、永久カレンダー(パーペチュアル)を
作り上げたと言われています。
そして、学校を卒業後は様々な時計メーカーから
誘いがかかっていた様ですが全て断り、
スヴェン・アンデルセンと呼ばれる独立時計師の元で
時計の修理を行いながらも、時計の制作に着手して行きます。
また、独立時計師アカデミー(AHCI)にも所属。
なお、自身の名を冠したブランド立ち上げ前に
製作したものとしては次の通り。
■1986年
フリー オシレーション(自動振動)※1トゥールビヨンの開発。
→ジャンピングアワー※2機能付きトゥールビヨン。
出典:FRANK MULLER
※1
フリーオシレーション
ひげゼンマイにいっさい接触せずに、
テンプに組み込まれたビスを回して重さを変えることで、
緩急の調整をします。テンプが自由に振動することで、
より精度の向上が期待できるもの。
※2
ジャンピングアワー
文字盤の小窓から、数字で時刻を表示する機構。
表示窓の数字が1時間ごとに瞬時にジャンプするように
切り替わることから呼ばれています。
いわゆるデジタルとアナログの融合の様なもの。
■1987年
フリー オシレーション トゥールビヨン
ミニッツリピーター※3の開発。
1986年に開発されたものに対して
ミニッツリピーター機能が追加されたもの。
出典:FRANK MULLER
※3
ミニッツリピーター
時計におけるプッシュボタン等の操作によって、
現在の時刻を音で知らせる機能。
■1989年
リバース トゥールビヨン ミニッツリピーター
パーペチュアルカレンダー※4の開発。
複雑機構の中でも、高度な技術が必要とされている
三大複雑機構を搭載したモデル。
いわゆるグランドコンプリケーション。
(複雑機構を複数搭載したもの)
研究と開発に2年を要し、数百個のパーツを使用。
1点のみ製作されたモデル。
出典:FRANK MULLER
※4
パーペチュアルカレンダー
4年に一度の閏年の調整などを自動的に
行う機能。
全く修正が必要というわけではありませんが、
長くなるので省略とします。
■1990年
スプリットセコンド※5クロノグラフ トゥールビヨンの開発。
トゥールビヨン、スプリットセコンドクロノグラフの
複雑機構を搭載したもの。
設計に16ヶ月を要し、こちらも数百個のパーツを使用。
前年と同様にこちらも1点のみ製作されたモデル。
出典:FRANK MULLER
※5
スプリットセコンドクロノグラフ
2本の針を用いて、2つのタイムを計測できる機能。
■1991年
ダブルフェイス モノプッシャー
クロノグラフ※6 ワールドタイム※7の開発。
文字盤が表にも裏にも存在するダブルフェイスウォッチ。
表側の文字盤には、通常の時・分・秒の針を利用しながら、
ベゼルに刻まれた世界の都市名と回転ベゼルによって
第2タイムゾーンの時刻を知ることができるワールドタイム、
裏側の文字盤にはパルスメーターを装備。
出典:FRANK MULLER
まだ、会社を設立する前の段階ではありますが、
複雑機構と呼ばれる高い技術力を必要とする機構を
複数搭載した時計を開発しています。
※6
モノプッシャー
1つのプッシュボタンで、
クロノグラフのスタート、ストップ、
リセットの各操作を行う機能。
※7
ワールドタイム
世界各地の時刻を表示する機能。
文字だけで内容を伝えきれないところもありますが、
天才時計師など言われる所以について
ご理解できたかと思います。
そして1992年、共同創設者兼CEOである
ヴァルタン・シルマケスと共にテクノウォッチ社
(現フランク ミュラー ウォッチランド社)を設立。
併せて同年、トノウ・カーベックスケースと呼ばれるケースを
発明しました。同ブランドの象徴的なデザイン。
フランス語で「樽」を意味するトノウと
「湾曲した形状」を意味するカーベックスから
来ています。
1998年、社名をテクノウォッチ社から
フランク・ミュラー・ウォッチランドへ変更。
そして、同年から独自の展示会である
「W.P.H.H」※8を開催。
※8
W.P.H.H
The World Presentation of Haute Horlogerieの略称。
フランク ミュラー ウォッチランド グループが
独自に展開する新作発表会。
それに伴い、所属していた独立時計師アカデミー(AHCI)を
同年脱退しています。
また、現在はピエール・クランツ、クストス、
バックス&ストラウスなどを初めとする複数のブランドを
所持するランク・ミュラーウォッチランドグループとして
運営。
2006年、企業として急激な拡張によって、
フランク・ミュラーが経営に関わらざるを得なくなった結果、
組織内で不協和音が生じたと言われています。
2003年、ヴァルタン・シルマケスとフランク・ミュラーに
確執が生じた様です。
その解決策としてヴァルタン・シルマケスが
CEOになることによって、フランク・ミュラーが
時計開発に専念できるようになり、和解にこぎつけたと
言われています。
そして、現在に至ります。
大まかな歴史については以上となります。
続いては展開しているコレクションの特徴についてです。
ケース形状、デザイン、機能別に説明します。
なお種類が多いため、一部抜粋となります。
コレクションの特徴について
ケース形状:トノウ・カーベックス
出典:FRANK MULLER
フランク・ミュラーが創作した時計ケース。
フランス語で
トノウ(tonneau):樽
カーベックス(CURVEX):湾曲
を意味します。
1920年代のアール・デコ※スタイルを蘇らせながらも、
現代のスタイルを併せ持った独特のフォルムを表現。
※アール・デコ
直線的で幾何学な模様がモチーフ
幾何学
→自然では作られない人工的な形を用いた
数学やその考え方
同様な言葉として、「アールヌーボー」という
言葉があります。
特徴としては、
曲線的で花や植物などの有機的なものが
モチーフ
アール・デコスタイルと呼ばれる直線的な
トノウ型のデザインに対して、カーベックスと呼ばれる
湾曲している曲線を用いた独特のフォルムで、
丸みを帯びた長方形の様なデザイン。
フランク・ミュラーが製作した
時計を購入した顧客に独自の時計の
デザインで時計を作ってくれないか?
と言われたことが起点となっている様です。
そして、それをもとにどうするか?
考えた結果に生まれたのがこのケースとなります。
ケース形状:ロングアイランド
出典:FRANK MULLER
1920年代から1930年代にかけて一世を風靡した
古典を重んじるノヴェチェントスタイル※に、
現代的なアールデコの解釈を加えることで
生み出されました。
※ノヴェチェントスタイル
「ノヴェチェント(Novecento)」
→イタリア語で20世紀
古代ローマからルネサンスにかけての古典美術への
回帰の運動。
つまり、過去と現代を融合したものと思います。
デザインとしては、直線的な長方形のデザイン。
ビザン数字と呼ばれる大きくて読みやすい数字を
用いた文字盤。
数字が大きく読みやすい文字盤に、
直線的な長方形のデザインとなっています。
※ビザン数字
フランクミュラーが作ったフォント。
時計の文字盤のインデックス(数字など)が
良く読み取れていないと考え、とにかく大きくて
読みやすい数字を求めた結果できたもの。
ケース形状:ラウンド
出典:FRANK MULLER
いわゆる時計のケースとして
一般的に用いられるデザインです。
つまり丸い形状のケース。
クロノグラフ、パーペチュアルカレンダーなど
複雑機構を搭載しているモデルが多い印象。
文字盤に使われる数字や針の細さなどから
文字盤内はクラシックな印象とは逆の印象で
過去のデザインを踏まえていない現代的なデザインと
見ています。
ケース形状:マスタースクエア
出典:FRANK MULLER
長方形のロングアイランドと同じく、
直線と湾曲をモチーフにしたアールデコ様式から
インスピレーションを得たコレクションとなります。
正四角形のスクエアケースに
中心から放射状に広がっていくようにローマ数字を
変形して表現しています。
クラシックなテイストを持ちながらも
現代的なテイストも持ち合わせたコレクション。
デザイン:カサブランカ
出典:FRANK MULLER
1920年代を代表する映画にちなんで
名付けられたコレクション。
当時のヨーロッパではバカンスに行く時に、
傷つきやすい金時計よりも当時の最先端技術でもあり、
耐久性に優れたステンレススティール素材の時計を
携帯することが粋でした。
その時代背景を時計に投影したもの。
パッと見はトノウカーベックスと
見分けるのが難しいデザインのコレクション。
■違い
トノウカーベックス
→ケース素材
ホワイトゴールド、ピンクゴールド、プラチナ、
ステンレスと様々
ギョーシェ彫りと呼ばれる繊細な装飾が施されている。
カサブランカ
→ケース素材
ステンレススチール
針に夜光塗料が施されています。
(一部例外有り)
また、価格帯については
カサブランカの方がリーズナブルな価格帯と
なっています。
デザイン:カラードリーム
出典:FRANK MULLER
カラフルに彩られた文字盤のビザン数字が特徴。
カジュアル性は高め。
フランク ミュラーが休暇を過ごしていた
マリンリゾートから発案。
ビーチで戯れる少年や少女達を見ながら
「笑顔が弾ける幸せな時間が、
無色透明であるはずがない。色に溢れ鮮やかであるはずだ」
と感じ、それを文字盤上で表現したコレクション。
楽しそうな雰囲気を感じられるコレクション。
機能別:マスターバンカー
出典:FRANK MULLER
文字盤内のメインの時針、分針での
時刻表示に加えて、縦に並べた2つの
インダイヤルにて3つの時間帯を同時に表示して、
読み取ることができる時計。
フランク ミュラーの友人でもある銀行家から
「瞬時に世界の金融市場の時刻が読み取れる腕時計があれば良いのに」
という、その何気ないひと言から
インスピレーションを得て創られました。
3つの時刻表示から、腕時計内に3つのムーブメントが
ありそうな感じもしますが、1つのムーブメントにて表示させ
1つのリューズで全てを操作します。
国内外に拠点が多い、または国内外を飛び回ることが
多い方には重宝する機能を有したコレクション。
機能別:クレイジーアワーズ
出典:FRANK MULLER
通常、時計の表示は1から順に12まで
インデックスが配置されています。
このインデックスの並びが
バラバラになっていることが
最大の特徴です。
具体的には、時針が連続的に回らないといった特徴。
時計の12表示の位置から順に
8、1、6、11、4、9、2、7、12、5、10、3と
並んでおり、時針が1時間ごとに4つ飛ばしで
動いていきます。
人生は決められたものではなく自分自身で
決めることができるという、有限な時間の中でも
より良く生きる為の願いを込めています。
一般的な時計とは異なる時計が欲しいと
感じた場合は、有用な候補となると思います。
個人的には興味深いコレクションです。
機能別:ヴェガス
出典:FRANK MULLER
名前の由来はラスベガス(Las Vegas)から。
また、特許を取得済み。
文字盤中央にカジノで用いるような
ルーレットを設けてリューズに組み込まれた
プッシュボタンを押すことによって回転、
ボタンから指を離すことによってルーレットが止まります。
時計の実用において必要性はありませんが、
展開しているコレクションの中でも、
最も遊び心を感じさせるコレクションと感じます。
機能別:シークレットアワーズ
出典:FRANK MULLER
文字盤の時刻は時針、分針共に12時位置のままで
秒針のみが動いている状況。
9時位置にあるプッシュボタンを
押すことによって、現在時刻を表示。
プッシュボタンから指を離すと、
再び針が12時位置に戻る仕組み。
動画で見ていただくと、よりわかりやすいかと思います。
コンセプトは「密かに時を刻む」
ヴェガス、クレイジーアワーズなど、
固定概念にとらわれないモデルが多いですが、
こちらも同様といったもの。
必要な時だけ時間を確認。
時間に追われている現代人にとっては、
必要なメッセージとも思います。
まとめ
固定概念に囚われない発想と、それを表現することが
できる技術力の高さが感じられる時計のブランド。
クレイジーアワーズ、シークレットアワーズ、ヴェガスなど
特に上記で挙げたコレクションは現代人の時間への概念を
壊そうとしているのかとも感じます。
時間といった概念に対して、創業者である
フランクミュラーが深いところでどう感じ、考えているのか
これらは調べていて、非常に興味がある内容。
興味深い人物と個人的に思います。
展開しているコレクションについては以上となります。
続いては、今年の新作について一部ですが、
併せて紹介したいと思います。
2022新作:カーベックス CX
出典:FRANK MULLER
フランクミュラーを象徴するケースである
トノウカーベックスのケースフォルムを
見直すことによって誕生したデザイン。
サファイアクリスタル製の風防を
ストラップに接するまで拡張して視認性を高め、
ベゼルをケースから独立させることでツートン仕上げ
トノウカーベックスと比較すると、
文字盤の視認性が向上しています。
また、発表されている4つのバリエーション全てに
ゴールドを用いています。
シンプルな3針ウォッチにゴールドを
組み合わせて高級感も演出。
フランクミュラーらしさをベースに
それをアップデート(更新)したコレクションと
考えます。
2022新作:トノウ カーベックス ダミエ
出典:FRANK MULLER
トノウカーベックスにダミエ模様の加工が
施されたもの。
ダミエ模様については、
過去に1年のみ、限られた2つのモデルに用いられたもの。
「インペリアル トゥールビヨン」と
「トノウ カーベックス ミニッツリピーター トゥールビヨン」、
いずれも1996年のもの。
この2作でフランク ミュラーは、トゥールビヨンのケージを、
上下3振りずつの剣型でかたどりました。
これには動き続ける剣で悪魔を祓い、
持ち主を災いから護るという意味が込められており、
複雑機構に寓意と物語性を重ねる
フランク ミュラーの哲学的な時計造りの真髄を描くもの。
この2つの作品にダミエ柄を用いて以来、
ずっと使用されてこなかったデザイン。
つまり、特別な作品にこの模様を施すものとして
捉えられていると考えます。
ブランドを象徴するトノウカーベックスに、
特別な作品を意味すると考えるダミエ模様を施した
周年記念としてふさわしい作品と見ています。
また、こちらもシンプルと高級感を兼ね備えた
コレクションとなっています。
2022新作:ヴァンガード マリナー
出典:FRANK MULLER
「航海」をテーマとした「ヴァンガードマリナー」へ
新たなサイズを追加。
縦50mm×横41mmとV45に比べ縦横約3mmの
ダウンサイジングがされています。
サイズが下がったことによって、腕時計の
主張も控えめになることによって、使いやすく
なるかと思います。
また、海を想像させるブルー、ホワイトを用いた
デザインとなっていて、季節限定となってはしまいますが
夏に使用するにはもってこいのデザインかと思います。
2022新作:フランク トノウ カーベックス レリーフ “ハート ダイヤモンド”
出典:FRANK MULLER
トノウカーベックスに1時位置にダイヤモンドのハートを
配置した限定モデル。
ゴールドを用いていて高級感があり、
ダイヤモンドのハートを配置。
高級感がありつつも、その中に
可愛らしさを加えたモデル。
色の割合などから、可愛らしさよりも
高級感の方が割合が高いようにも感じます。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
個人的には、メッセージ性が強い作品が
多いと感じたブランドと考えます。
自身が多忙だったゆえに「時間の解放」といった
ところからできた作品や、「時計を楽しむ」という
作品など感じたことを表現した作品は
興味深いと感じました。
また、それらを表現することができたのは、
天才時計師などと言われる所以でも
有るかと思います。
それと同時に多忙な現代人にとっても、
必要なメッセージではと考えます。
もし思うところがあるのであれば、
一度立ち止まってご自身と向き合ってみることが
良いと思います。
参考になれば幸いです。
今日もご覧いただき、ありがとうございました。
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